悪友就職

 
 
 
 
 

 なみなみとビールが注がれたジョッキを、軽く掲げる。向かいの席では硝子が同じポーズを取っていた。
 久しぶりだね、いつ振りだっけ、半年、いや一年くらい経つかな、あれどうだったったけ、まあ結構振りだよね。なんてやりとりは既に済んでいた。ジョッキ同士をゴツンと当てる。
「永久就職おめでとう」
「えっ違うよ」
 軽口をずばりと否定をしながらも、ひとまずビールに口を付けた。滑らかな泡の向こうからビールが流れ込んでくる。
 ごくりと一口飲み込んでからもう一度「いや違うんだよ、確かに就職はしたけれど」とかぶりを振る。
 その間に硝子はジョッキの半分を空けていた。メニュー表を開いて向ける。隈のある目が文字列をざっとなぞって「とりあえずもう一杯」と手を挙げて、店員を呼び止めた。
 この、そこそこちゃんとした中華料理店には、店員を呼び出すボタンがなかった。注文も手書きで書き留められる。
 それだからか、そんなことは関係ないのか知らないが、美味しい店らしい。悟がそう言っていた。名家の生まれで舌の肥えた悟が言うので、たぶん、きっと、間違いないだろう。
 断定できないのは、傑の大雑把チャーハンや、冷蔵庫にあった物炒めに対して文句を言わないどころか「美味しい」と言って食べるせいだ。不味くはないと自負しているが、美味しいと褒めるほどではない。
 対して悟の作る料理は文句なしに美味しい。器用だからだ。自分が一人暮らしで悟が近くで洋食店を営んでいたら、最低でも週二回は通う。そういう味だ。
「でも、プロポーズされたんだろ」
 空になったジョッキを、満タンのジョッキと入れ替えながら、硝子がそう言う。店員の前で言うものだから、視線が一瞬こちらに向いた。え、プロポーズされたの、したんじゃなくて、とか思われたに違いない。
 曖昧に笑って場をやり過ごす。こちらはプロポーズをされるどころか、することすら一生ないと思っていたのだ。
 悟がいたから。親友同士ルームシェアをして、一生楽しく騒いで暮らしていくと思っていた。まさかその悟にプロポーズされるとは思ってもみなかった。
 ジョッキの中身を半分ほど飲んだところで、一度テーブルに置く。ゴトンと音が鳴る。枝豆に手を伸ばす。眉根を寄せる。
 プロポーズはされた。更に言えばハネムーンも済んだ。
「はは、名実ともに正妻か」
「いや違うよ」
「ならなんだその指輪」
「結婚指輪だね」
「ほらみろ」
 あきれたっぷりの視線に目向け、右手を掲げる。問われたらそりゃあ見せる。面白いから。
 ぱっと見せてぱっと下げる。そのあとで「いやだがしかし違うんだ」と繰り返し否定する。プロポーズと永久就職と結婚指輪と正妻は、それぞれ別の問題だ。
 そう説明している間に料理が届いた。「青椒肉絲と餃子三人前です」と皿を置いた店員は平静を装っているが、隠しきれない動揺と好奇心がにじみ出ている。口を挟んだり思い切り顔を見たりしないところは評価できる。そういうところ含めて、悟のお墨付きなのかもしれない。
「いやだから」と「違うんだよ」を今日だけで何度言うことになるのだかと思いながらも口に出し、タレにラー油を垂らし、熱々の餃子を浸して頬張る。硝子は熱々を察してか、青椒肉絲から取り分けていた。
「でも懐かしいね、その、正妻って響き」
「なんだ、私以外からも言われてたのか?」
「硝子からあの一回きりだよ。ショックでね、よく覚えてる」
「根に持ってるの間違いに聞こえるな」
 そんなことはないよと否定して、もう一つ餃子をつまむ。これも美味しいが、悟の作る餃子も美味しいんだよね、と思いをはせる。包むのも上手いし、羽を付けるのも上手い。そもそも起用で大体のことが上手かった。肉まんを皮から作って蒸していたこともあるほどだ。
「永久就職もあながち間違っていないだろ」
「それだと私が嫁いだみたいじゃないか」
「でも五条の会社に就職したんだろ。それ、二度と辞められないとしか思えないな」
「まあ、辞めるって言ったら悟泣いちゃうかもね」
「そんな可愛い感じか?」
「そういうなら、永久的に就職したのは確かかもしれないな」
 残りのビールを飲み干して、メニューを開く。硝子のジョッキはまた半分まで無くなっていた。回転が速い。会うのが久々になってしまったのは、硝子の仕事の都合だったし、仕方のないことか。選んで就いた仕事でも、忙しければ鬱憤も溜まる。
「紹興酒飲む?」
「頼め。どうせ今日の飲み代は五条の金だ」
「一応おごるのは私なんだけど」
「結婚したならもう一緒くたみたいなものだろ」
「これでも給料支払われてるからね」
「その給料、五条が支払ってるだろ」
「嫌な言い方するなよ。労働もしている」
 真っ当な対価だ。と胸を張って言うには、目の泳ぐところがないとは言えない。労働はしている。これは事実だ。事実ではあるというべきか。
 ひとまず店員を呼び、一番上に書かれた紹興酒をカラフェで注文する。これを飲み干したら、次はその下のものを注文しよう。中華料理店なので紹興酒にしたというだけで、やはりこだわりはなかった。美味しければいい。
 ところで初めに注文した小籠包は、いつごろ届くのだろう。蒸されているから時間がかかるのかもしれない。
「ああ、てことは、もう仕事始めたのか?」
「そうだよ。この前、ネパールまで買い付けに同行してね」
「ネパールか。どうしても最初にイエティがよぎるんだよな」
「それってあれでしょ、ゴマフアザラシの」
 そういうアニメがあった。ゴマフアザラシの赤ちゃんを脇に抱えた少年が主人公の、どういう話だったか。そもそも原作は漫画だったかもしれない。
「イエティは居なかったけど、食べ物はインド料理みたいだったよ」
「へえ。近いからか」
「日本にあるインド料理店のいくつかは、実はネパール人が営んでいるらしいよ」
 ネパール料理と言ってもピンとこないから、知名度を借りているのだとかなんだとか。これは悟談だ。
あちこち飛び回っているだけあって、お国柄小ネタなんかを仕入れてきては、暇つぶしが必要な時に話し出す。こういうとまるで話し上手のようだ。面白おかしく話してくれるので時間は潰れるが、ネタの種類が尖っていて、信憑性という面で扱いに困る。悟のことを考えていたことがバレたのか、硝子が眉をひそめていた。
「いやちゃんと仕事もしたよ。荷物を持ったり、腕を組んで後ろに立ってみたりね」
「せめてボディーガードって言ったらどうだ」
「囲まれたら私も出るけど、一対一だと悟が勝つからあまり出番はないんだ」
「はっ」
「いや冗談だよ。そういうのは学生時代っきり。大人になってからはさすがにないな」
「あー、五条の彼女問題でとかも、あったな」
「あの頃が一番血気盛んだったよ」
 私達も落ち着いたものだよ。
 しみじみと頷いていると、そろりと紹興酒が届けられた。三つ置かれた小さなグラスを二つ取り、同じ量ずつ注いで二人で分ける。「あま」と硝子が驚いていた。
 ふと、大人になったので暴力沙汰に巻き込まれなくなったのではなく、悟が彼女を作らなくなったので人の彼女を盗った問題が発生しなくなっただけでは? という疑念がわき上がった。だが知らない方がいい真実というものもあるので、酒で流して気づかなかったふりをする。
 すっかり食べやすい温度に代わった餃子をつまむ。どんどん減っていく餃子に危機感を抱いたのか、硝子も箸を伸ばして小皿に取り分けた。
「このままいくと、夏油も古物商になるのか?」
「どうかな。一応勉強はしているけれど、悟には敵わないからね。ほどほどに営業だとか事務処理だとか、そういう方向でやっていくつもりだよ」
「秘書みたいだな」
「いいね、せっかくだし秘書検定でも取ろうかな」
 幸いというかなんというか、時間だけはたくさんある。慌ただしくはあるが、忙しくはなかった。急に予定が入って地球の反対側へ、なんてことはあるが、道中や現地に着いた後は結構暇だったりする。
「ああでも、ネパールでは私も目利きに挑戦したんだよ」
「へえ、どうだった」
「だめだね」
 紹興酒を一口飲んでから、はっきり堂々と答える。
 全くだめ。さっぱりできない。
 古美術も宝石も、真贋どころか善し悪しの判別すら微妙だ。しかし「この品物をこれくらいの値段で売ってこい」と言われたら出来る自信はある。元が営業職なので。
「宝石の原石を扱う店に連れて行かれてさ、一番いいやつ選んでって言われたんだよ。だから出来ないなりに頑張ったんだ。仕事だしね。給料発生しているしね。まあ勘なんだけどさ。それで、これとかどうかな、って一つ選んだわけだよ」
 話している間に、あの日嗅いだ香辛料の匂いが蘇ってくるようだった。悟はサングラスを頭にさして原石の山を探り、ひょいひょいといくつかを選び出し購入していた。今になって、あの店の雑多さはなんだったのだろうと不安になる。
 もう一口紹興酒を飲み、グラスをテーブルに置く。硝子を見る。眉を寄せ、いくらか目を細めて傑を見ていた。
 答えるように頷いてみせる。
「そうしたらどうなったと思う? くれたんだよ」
「急にノロケるな」
「それもだよ、指輪に加工した後で」
 これだよこれと、右手の人差し指にはめた指輪を見せる。
 選んだときには人差し指の先ほどの大きさがあったのだが、指輪に加工するさいに五分割されてしまっていた。
「宝石は大きい方が価値があるんじゃないのか」という既視感のある質問を投げれば「割ったくらいじゃ代わんないくらい価値ないから大丈夫」とピースサインを向けられたときの心情は、とても一言では言い表せない。
 怒って良いところなのか自分の目利きの出来なさに呆れるべきなのか、はたまた「わあ素敵な指輪だね」とでも言えば良かったのか。実際指輪は宝石の鮮やかさを生かしながらも重厚感があり、かなりおしゃれだ。それなりの高値で売れると思う。
 という内容も添えて硝子に伝えた。
「酒のメニュー出せ」
「次のでいい?」
「もっと辛口でスッキリしたやつにしてくれ」
「どれだろう。まあいいや、店員さんに聞こうか」
 手を挙げて店員を呼び、要望を伝えて酒を選んでもらった。酒を追加したが紹興酒はまだ残っていたので「飲む?」とたずねると「飲んじゃって」と溜息交じりの返事があった。
「というかさ、私も仕事なわけだよ。ちゃんと給料もらって買い付けに同行しているんだよ。それなのにプレゼントされて終わりってどうなんだ」
「お前らのノロケの善し悪しは分からん」
「これね、仕事の相談なんだよね」
「社長と愛人の話だっていわれたら、まあそうかもなって感じ」
「……分かるかもって思ってしまって本当に嫌なんだけど」
 社長がキャバクラで作った愛人を海外出張に連れて行き、現地で選ばせた宝石をあしらった指輪を作り贈った。と言われた方が、ストーリーとして納得しやすい。
 溜息を酒で流す。飲んでばかりではいけないとテーブルを見渡し、ゴマ団子と悩んでシュウマイをつまんだ。やはり甘い物は最後がいい気がする。
「他にも話していいかな」
「ノロケ以外ならな」
「ノロケは一回もしていないんだよね……、事務所の話だよ」
「ああ、構えるとか言ってたな。元は五条の実家を拠点にしてたんだっけ」
 そうそうと頷く。一人で行動していたし、会社という形態では無かった、はずだ。傑の入社を切っ掛けに、事務所を構えることになった。二人の部屋で仕事をするには狭いし、悟の実家に通うのも変だろうとなったのがきっかけだ。品物の保管や、商談にも使えるようにと考えてのことだった。
「私はさ、どこかに倉庫を借りるか、オフィスビルにでも入ると思っていたんだよね。そうしたらなんとさ、建てていたんだ。オフィスビルを」
「ん?」
「なんかやけに新しいビルだとは思っていたんだけど、まさか事務所が欲しいからオフィスビルを建てるとは思わなくて」
「ごめん、なんだって」
「古物商以前に家賃収入が発生しているって話だよ」
 それはもう、真面目に仕事をしなくてもいいかなというくらい発生している。
「お坊ちゃんだとは思っていたけど、ここまでとはね」
「あんだけボンボンっていじったのにか」
「思っていたよりもう十倍くらいボンボンだったんだよ」
 事務所構えるかと言われたので、いいね、と答えたらビルが建っていた。という状況を受け止めるためにはまずまずの胆力が必要になるはずだ。
 社長と愛人の関係だったのなら「わあ凄い」で済ませたかもしれないが、悟とは親友でありパートナーであり、一緒にバカして遊ぶのは楽しいよな、という関係だった。
 今回雇用関係も追加になりはしたが、親友にパートナーを追加した際の副産物くらいに捕らえていた。一生一緒に楽しく暮らしていこうなと約束をしたらビルが建つなど、誰が予想出来ようか。
「それもビルを建てたってことを知ったのがさ、雇用条件明示書を貰った時に、給与に文句を言ったからなんだよ」
「雇用条件って……思ったよりきっちりしてるな」
「悟って意外と書類作るの上手いよ」
 裁判沙汰になっても勝てる様にしている、とかなんとか言っていた。とはいえ傑に渡された書類の中身は、きっちりとした書式と文言に見合わない、適当なものだったのだか。
「それでさ、給与がもう異様な額なんだよ。月給の欄にボーナスか? みたいな金額が書かれていて、さすがに私も文句を言ったんだ。もうちょっと良識的な金額を書けとか、給与に見合った働きができないとか色々ね」
「夏油はそういうところで真面目だよな。で、意見通ったのか?」
「言い負けたね」
 それはもう綺麗に言い負けた。
 悟との口論で完敗を喫することはまずない。思わず落ち込んだ。理屈が通っていて意味が分からないし、言い負けて悔しいしで、硝子に連絡をとり「私の奢りで飲みに行かないか」と誘ったほどだ。しかし日程が合わずに今日まで延び、間にネパールを挟んでしまったせいで話題が増えてややこしくなっていた。
「家賃収入とか諸々の数字を並べられて反論出来なかったのもあるけど、その時初めてビルを建てたことを知ったのも敗因の一つだと思うんだよね。パートナーにビル建築を黙っているってどうなんだ?」
「五条と数字で言い争ったら、そりゃ負けるだろ」
「理系だしね」
 私はどちらかと言えば文系だしねと肩をすくめる。
「それで、言い負けて悔しくて私を呼んだのか」
「それもあるけどそれだけじゃないよ。最近会えていなかったし。それに、こんなの一人じゃ抱えきれないだろ?」
 誰かに話したくもなるというものだが、いったい誰に聞いてもらえば良いというのか。これはもう同級生のよしみだ。「まあまあ」と酒を勧め「硝子は最近どう?」とたずねると「食事中に話せるような内容はないな」と呆れられた。それはそうだ。「お前らみたいに変な生き方はしていない。堅実なもんだよ」
「私まで破天荒みたいじゃないか、と反論したかったが、もう無理だね」
 営業として一般企業に勤めていた頃ならできたが、今はもう悟の一味になってしまっていた。せめてもう少しまともに仕事をしたい。給料分くらいは仕事をしたい。
 悟のコレクションで余っている物を、適正価格でどこかに売り込むなどしようか。とすると、倉庫の在庫把握もしなくてはいけない。ふむ、仕事らしくなってきたかもと気を持ち直す。
 そこで漸く小籠包が届いた。
 せいろを開け、六つ並んだ小籠包を一つずつ取るともう半分無くなる。もう少し頼んでもよかったか。けれどこれほど時間が掛かったことを思うと、追加するかは悩ましい。レンゲに乗せ箸でやぶり、スープをすすり、ぱくりと頬張る。硝子は小籠包をレンゲに乗せたまま、ちらと傑の横に目を向けた。
「で、ここまで言いたい放題されて、五条はなんで一言も反論しないんだ」
「拗ねているんだよ」
 綺麗な所作で小籠包を食べる、となりに座った悟に目を向ける。今日はまだ一言も発していないが、食べるものはしっかり食べていた。一番食べているのはゴマ団子だけれど。
「既視感だな」
「あったよね、前にもこういうの。あの時の悟は拗ねていたわけじゃないけど」
 顔面に残る綺麗な手形の痕も、あれ以来見ていない。
 ケンカをした際に拳で殴ってしまい、青あざをつけたことは一回ある。避けるだろうとジャブを打ったら、予想外にも当たってしまったというやつだ。さすがに驚いたし謝った。ケンカの内容はよく覚えていない。
「一応聞いてやるが、どうして拗ねているんだ」
「聞いてくれてありがとう。実は今日、硝子と会うことを悟に伝えていなくてね。というか、一昨日から三日間家を空けている予定だったんだ。だから話さなかったのだけれど、今日の昼に戻ってきてね。今日は硝子と会うから一人で晩ご飯食べてって言ったら、拗ねちゃって」
 頬を膨らませながらもついてくるところは可愛げがあるような、そうでもないような。なんて考えていると、硝子があっさりと言葉にした。
「面倒くさいな」
「はは!」
「こうなるって分かってただろ。戻ってきた時点で誘ってやればよかったんじゃないか」
「いやだって、言ってしまえば今日の主題、悟の愚痴だよ」
「認めるのか」
「ノロケではないと誓おう」
 頷いて胸に手を当てる。
 ノロケを人に話すたちではないし、そもそもこれはノロケではない。親友のことをノロケるとはどういう状況なのか。いやパートナーであるならノロケは成立するのか。そもそも親友という存在のノロケが成立しないという決めつけもよくないか。
 酔いが回ってきたのか、考えがあちこちに移動してまとまりがない。硝子は冷ややかな目差しを傑の上から移動させ、杏仁豆腐を食べる悟に向けていた。
「結局、本人が居る前で堂々話したな」
「承知でついてきたから、いいかなって」
「事前申告までしたのか」
 ひらひらと手を振った硝子が「メニュー」と呼ぶのでアルコール類のページを開いて見せれば、一枚めくられた。デザートの項目に目を滑らせ熟考したのち「マンゴープリン」と言うので、自分用に杏仁豆腐を追加して注文する。
「俺もマンゴープリン食べる」
 この時、飲み会が始まってから初めて悟が口を開いた。今までジェスチャーで注文をしていたのにと、驚きに目を向ける。
「五条、拗ね終わったのか?」
「いやまあ拗ねてたけど、傑が俺の愚痴言うっていうから邪魔しちゃ悪いなって思って黙ってだけだし。ネタばらしも終わったしさすがにもう良いかなって」
「え、そうなの」
 驚いて目を向ける。確かに悟はすっかりいつも通りの表情をしていた。残っていた餃子をつまむと、ひょいと口に入れる。
 硝子はしばし考えるような、たばこが吸いたいと思っているときのような、そんな表情を浮かべて頬杖をついていた。そして悟に、指先を向ける。
「聞いてやらないとフェアじゃないと思うから聞くが、これまでの愚痴に弁解はあるか?」
「ない、ぜーんぶ事実」
 手を顔の横に上げ、悟が堂々と肯定した。
 硝子の視線が傑に向く。見つめ合ってしまったので微笑むと、珍しく笑みが返ってきた。
「デザート食べたら解散な」