盲目な幸福

(あほっぽい綾主)

「不自由だ」
 そう呟くと正面で笑う気配がした。くすりという音が吐息に乗ってほんの少し漏れる、そういう笑い方。きっと嬉しそうに唇に弧を描いているんだろうなと想像する。
「そうはいっても賭けだからね」
「そうだけど」
 言葉の一文字一文字の楽しそうな揺れを感じながら、はあと溜息をつく。
 確かに「暇だから何か賭けよう」と勝負を持ち掛けたのは自分だった。
 二人とも覚えたてのチェスをして、負けたのも自分だった。
 何を賭けようかという話になって「じゃあ負けた方は目隠しをして過ごす」と思いつきで適当に提案したのも、これまた自分だった。
「これ賭けっていうか罰ゲームだな」
「そうだけど。君発案だから異論は認めないよ」
「分かってる」
 むすりと唇を尖らせれば、また笑う気配がした。
 目隠しという罰ゲームを課せられた自分の目は今タオルで覆われている。
 ふわふわ柔らか柔軟剤が効いて良い匂いのするタオルを、くるくると畳んで頭の後ろで縛っている。
 真っ暗ではないが、何も見えない。
 鼻とタオルの隙間から微かに何かが見えているが、特に役立たない情報程度なので意味は無い。
 それに顔の上に何かが乗っているというのは、もぞもぞとして気になる。ほぼ反射的に目隠しに手を伸ばすと「取ったら罰ゲーム追加だからね」とたしなめる楽しそうな声が飛んできた。
「分かってるよ」
 仕方なく手をテーブルの上に置く。
 今はダイニングの椅子に座っている。チェスをしたのがここで、そのまま罰ゲームとなり今に至る。家の中で向かい合って座れて、程よいテーブルがあるのがここだけだったのだ。
 テーブルはひんやりツルリとしていた。使い慣れたものの筈なのに、今初めて触ったみたいに新鮮な感触がする。
 五感が一つ封じられると、他が補うように敏感になるというのは本当なんだなと机を撫でまわす。ツルリとした中に小さな傷があった。爪が少しだけひっかかる。こんな傷があるなんて知らなかった。そこをかりかりと引っ掻いていると、突然頬に何かが触れた。反射的に身をよじる。
「うわっ!」
「そんなに驚かなくても」
 驚いた綾時の声が、先程よりも近くから聞こえた。とすれば頬に触れているのは綾時か。落ち着いて頬に意識を集中すると、それが指だと分かる。
 一本二本、三本の指先が触れている。柔らかい、温かい。
「いきなり触られたらビックリするに決まってるだろ」
「そうだね、見えてないもん余計にだよね。ごめんね」
 言葉としては反省しているのだが、声色は全くもって楽しそうだった。絶対面白がっている。この後何をしてみようか、とか企んでいる声だ。見えないけれど分かる。
 頬に触れている指先が、肌を撫でる様に移動する。見えないせいで感覚のほとんどがそこに集まっているみたいだ。意識がそこに集中して、ぞわぞわする。
 声も音もないけれど、何となく綾時が笑っている気がする。そして多分、自分の顔は今引きつっている。この後何が起きるのか、指の動きだけでしか予想がつかない。流石に少し怖い。
 そんな心配を裏切るように指先は頬を上へと進み、目元をくすぐると離れた。ほっとしつつ、触られていないと今度はどの辺りに綾時が居るのかの予想がつきにくくなって不安になった。
「綾時」
 ためしに呼んでみる。返事はなく、代わりによくわからない圧迫感が迫ってきた。前の方から感じる。ような気がすると、右手を振り上げると何かにぶつかった。
「いたっ」という声がして、殴ったものが綾時だったことが発覚した。
 声の距離からして物凄く近い。まさに眼前といったところだ。よくわからないがぞわぞわして顔を背けた。
「今何しようとしてたんだ」
「いやーちょっとびっくりさせようとしただけだよ」
「ふうん」
「ふふ」
 誤魔化すように笑う声が離れていった。衣擦れの音がして、静かになる。椅子に座ったのだろう。
 はてこの後はどうしようか。
 何しろ見えないので出来ることが限られている。むしろ何が出来るのかもよくわからない。寝たら楽なんじゃないか、と思い当たるが多分ダメだろう。「罰ゲームなんだから」と綾時に妨害されて終わりだ。
「そうだ、コーヒーでも淹れようか。見えなくても飲むくらいなら簡単でしょ」
「じゃあ頼む」
「今日は」
「ブラックで」
「了解」
 短いやりとりをした後、椅子が床の上を滑る鈍い音がした。それから人の動く音が遠ざかっていく。
 手持無沙汰になった。首を左右に振ったところで何も見えない。
 暇だ。台所に向かっただろう綾時が立てる小さい物音に耳を傾けるしかない。がさがさという音がしばらく続いた後、コーヒーメーカーから漏れる機械音と水音が聞こえてきた。それだけの音になる。
 あれ、綾時は何処へいったんだろう、とつい首を振るが勿論見えるわけはない。
「りょうじ」
「正面に居るよ」
 今度は直ぐに返事があった。ほっとする。ほっと息を吐いたら笑い声が聞こえて、恥ずかしくなって慌てて口を引き結んだ。
 暫くして、足音と共に綾時が戻ってきた。コトンという音がする。
「熱いから気をつけてね」
「分かってるって」
 音のした辺りを手で探る。多分マグカップが置かれているはずだ。ごそごそと手を動かしていると急に腕を掴まれた。
「早速危ないから、もう」
 呆れた溜息が頭の斜め上から降ってきた。なんだと、と思うのも束の間。
 掌を掴まれて誘導される。「ここ」という風に指先がカップの取っ手に振れた。陶器の感触と形を確かめながら、しっかりと握る。
「気を付けてね」と念を押されたので、もう片手も添える様にしてマグカップを口に運んだ。
 コーヒーの香ばしい匂いが漂ってくる。ほっと息を吐くと湯気が揺れ、顔にかかるのを感じた。熱いから、と言われた割に、言う程熱くなかった。火傷しないように気を使って淹れてくれたんだろう。
 ぱっと顔を上げるも綾時の顔は見えないのだった。どんな表情をしているのか気になったのに、残念だ。
 マグカップを空にして、息をついているとトイレに行きたくなってきた。
 テーブルに両掌をつき、ひざ裏で椅子を押し立ち上がる。十分に椅子を遠ざけた後、右を向く。
 今まで座っていた椅子の位置がここなので、トイレは右の方だ。頭の中で見慣れた部屋の風景を想像する。それでも一応目の前に何も障害物が無いことを確かめる為、手をパタパタと振る。
 何にもぶつかららない。よし大丈夫だと一歩踏み出し、四歩目で何かに蹴躓いた。何だこれ、と思う間もなくバランスを崩す。
 バタンと何かが倒れる音がして、腹を思いっきり圧迫された。うぐ、と呻く。
「あっぶないなあ」
 綾時の声がすぐ後ろから聞こえた。ということは腹を圧迫しているこれは綾時の腕か。ぺたぺた触ると肌の感触がした。
「棚に突っ込んでいくからびっくりしたよ。もう」
「これ、あぁあの棚か」
 ぐっと体を引かれ、真直ぐに立たされた。ダイニングテーブル近くに置いてある、カラーボックスに足を引っ掻けたらしい。足先でちょんちょんと蹴ると、固い感触がする。これはそう大きく動いていないので、先程の倒れる音は綾時が椅子を吹き飛ばした音かもしれない。
「なに、どこに行きたいの」
「トイレ」
「それなら声を掛けてくれればいいのに」
 呆れと安心の混ざった声を掛けられ、手を取られるとどこかに誘導された。何かに腕をからめられる。まああったかいし柔らかいのでどう考えても綾時の腕だ。むしろこの感触でそれ以外だったら怖い。
 ぴったりと体を寄せられて、さあ行こうかと一歩引っ張られる。
「いや、ここまでしなくても歩けるから」
 それこそちょっと手を引いてくれるくらいで十分だろう。だが綾時が首を振る気配がした。
「さっき派手に転びかけた人が何を言ってるんだい。これが嫌ならだっこして連れて行ってあげるよ」
「そっちの方が嫌だ。はあ分かった、これで頼む」
「まかせて」
 楽しそうな声に引かれて歩き出す。
 住み慣れた自分の家だというのに知らない場所みたいだ。綾時に誘導され見えない何かをよけながら進む。
「てかさ、この罰ゲーム危険はらみすぎだろ」
「君が言い出したんだよー。まあでも確かに危ないからやめようか」
「いや、言い出しっぺだしやる」
「そういう男らしさは無くても良いと思うな……。それとも止めるのに理由がいるなら僕が考えてあげようか」
「いいってば」
「そんな意地張らなくても。見えなくて落ち着かなそうな君を見てるのも面白いけどさ、やっぱり僕は君の瞳が見たいなあ」
「いや続ける」
「もう分かったよ。お好きにどうぞ。でも終わり時くらい決めておこうか。いつまでやる?」
「あー、じゃあ寝る前」
「結構頑張るね」
 はあ、と感嘆する声がしてトイレに辿りついた。ドアの開く音が立つ。さあどうぞと招き入れられ、綾時の顔があるあたりに顔を向けた。
「出てていいぞ」
「平気? 一人で出来る?」
「人を何だと思ってるんだお前。座れば出来る」
「それもそうだね。じゃあ外に居るから、終わったらドアノックしてね」
 綾時が外に出るとドアが閉まる音がする。ベルトのバックルを外しながら溜息が滲み出た。
 やっぱりさっきやめておけば良かったかもしれない。

「晩ご飯はちょっと張り切って天ぷらを作ってみました」
 手を叩く小気味良い音が聞こえて、ダイニングテーブルの上に置いた手を握り締めた。
「なんでそんな食べにくい物をチョイスしたんだ」
 カレーとか焼きそばとか、皿の位置が分かっていればどうにかなるだろう食べ物にしてくれたら良かったのに。
 どうして、どうして今日に限って天ぷらなんだ。ご飯はいいとして、天ぷらじゃあ皿の位置が分かっても何が乗っているのか良く分からないし、天つゆにつけたりなんだり。
 それにエビ天を尻尾から食べてしまった日には悲しみに暮れるしかない。なんで天ぷらなんだ。好きだけど。
「ごめんね。天ぷら、好きじゃなかった?」
 綾時がワザとらしい声を出すものだからなんだか腹が立ってきた。
 気遣いの出来る細やかな男だと信用していたのに。こんな罠にはめられるなんて。「晩ご飯作って来るね」という綾時を送り出してのんきにヘッドフォンで音楽を聴いている場合じゃなかった。
 揚げ物を作る音が聞こえていたのならば、いや「音楽でも聞いていたら」と勧められた覚えがある。初めから罠にはめる気だったのだ。悔しい、実に悔しい。
「でも責任とって僕が食べさせてあげるから、安心して」
「茶番劇だ……」
 項垂れていると、椅子を引き摺る音がして直ぐそばに落ち着いた。綾時がとなりに陣を構えたらしい。
 諦めて顔を上げる。嫌だ食べないと突っぱねるという選択肢も無いわけではないが、油の香ばしい匂いに空腹が掴まれ切っている。きっとこんがり金色の綺麗な天ぷらが皿に乗っている事だろう。
 サクリという軽やかな音が聞こえた。天ぷらを箸で掴んだ音だろうか。
「はい、口開けて」
 あーんと言われなかっただけましか、と思いつつ言われるまま口を開ける。ぽかりと口を開けて待つ姿は鳥の雛みたいなのだろうと思うとアホっぽくて恥ずかしい。
 羞恥に耐えながら口を開けているが、待てども待てども何も起きない。おかしいと気付いて口を閉じる。
「いい加減にしろよ」
 綾時の居る方を睨むが、目隠しがされているので何も効果は無い。
「ごめんごめん。可愛いなあって思っ」
「いい加減にしろよ」
「分かってるよ、次はちゃんとするよ」
「絶対だぞ」
「はい、あーんして」
 結局あーんと言われてしまった。恥ずかしさを怒りで誤魔化しながら、口を開ける。口の中に入ってきた物を噛みきると、エビの天ぷらだった。
 美味しかった。

 晩ご飯を食べたら後、寝るまでにある大きなイベントと言えば風呂だった。
 一人で入れると言ったのだが「足を滑らせて溺れたらどうするの」と真面目な声で強く言われて何も言い返せなかった。仕方なく一緒に入ることになる。
 手を引かれ脱衣所に入る。それから少しの間待った後、服を脱いだ。綾時が先に入って体を洗っているのだ。二人一度に体を洗うには流石に狭い。服を脱ぎ終わった頃、浴室の扉が開く音がしてそこから熱気が零れ出てきた。
 立ち上がると「目隠しは取っちゃだめだよ」と念を押された。「分かってる」と答える。
「こっちおいで」
 声のするように一、二歩歩くと手を取られた。濡れた熱い手に、両手とも取られる。綾時は正面に立っているらしい。ゆっくりと誘導され、段差があるよと声を掛けられる。段差を越えると足元の感触が濡れた風呂場のタイルに変わった。
「体洗ってあげようか」
「結構です」
「じゃあ必要になったら呼んでね」
 楽しそうに跳ねる声を残して、大きく水が揺れる音が聞こえてきた。綾時が湯船につかったらしい。風呂椅子に座り、さてシャンプーはと手探りで探す。ありそうな場所に向かって手を彷徨わせていると、突如ボトルが手の内側に湧いて出た。綾時が取ってくれたようだ。
 ポンプを押し、掌にシャンプーを取り出し泡立てたところでふと気付く。
「なあ綾時」
「なんだい」
「目隠しが邪魔で頭が洗えないんだけど」
「そういえばそうだね。ちょっと待ってね、取ってあげるから。でも目は閉じててね」
「分かってる」
 水面の揺れる音がし、頭に何かが触れる。ぎゅっと目をつむる。目隠し用のタオルが外れた。随分久し振りに目に直接空気が触れた気がした。
「こっち向いて」と呼ばれ、顔を向ける。目を閉じている事を確認すると綾時が「よし」と頷いた。
 さて頭を洗おうか、というところで唇を引っ張られた。何事かという疑問は、後頭部を引き寄せられた時に解決した。唇に柔らかで濡れた感触が押し付けられている。
「ちょ」っと、と声を出そうと口を開くと、隙間から熱くてぬるりとしたものが滑り込んできた。ざらりと舌を撫ぜられ喉が引き攣る。
「目、開けちゃ駄目だよ」と吐息を吹き掛けられたところで、適当に辺りをつけて拳を振り下ろした。それが頭にクリティカルヒットしたらしく「いたい!」と綾時が叫んで離れた。
「おまえ、滑って転んだら危ないって言ったのお前だぞ」
「うう……だって……ほら……」
「ほらじゃない、いい加減にしろ」
「はい」
 しゅんとした声を残して綾時の気配が遠ざかった。湯船に戻ったのだろう。溜息を一つ零して、泡立てっぱなしだったシャンプーを頭に乗せた。
 頭と体を洗い終わったところで、綾時を呼んだ。
 姿を探して手を彷徨わせていると捕まれる。湯船で随分温まったらしい、凄く温かい指に手を取られる。「起ち上がって」「一歩こっちに歩いて」「右足から」と誘導される。
 上手く湯船に入れず、ヘリに足をぶつけていると綾時がざばりと立ち上がった。手を思い切り引かれたかと思えば抱き上げられて、そのまま湯船に下ろされた。なるほど、これは恥ずかしい。
 ほんの数秒のことだが濡れた肌がぴたりと合わさってやたらと恥ずかしかった。湯船に入ると背中を縁に押し付けて膝を抱えて大人しく丸くなる。足に肌が触れているから、綾時は向かいに同じように座って入っているようだ。
 こういう時に限って綾時は無駄口を叩かなくて、風呂場は凄く静かだった。水の揺れる音が敏感になった耳に良く届く。水一滴の音さえも凄く大きく聞こえた。落ち着かない。少し足先を動かしただけで綾時にあたる。静かに丸くなっているしかなかった。
 ぱちゃりと水がはねる音がして、思わず体が強張る。なんとなく綾時が近寄ってきている気配を瞼越しに感じる。何かと身構えていると、目に目隠しが当てられた。乾いたタオルの感触が戻る。
「……髪乾かすまで取っておいてくれたら良かったのに」
「いやあ、なんだか落ち着かなくて」
「なにが」
「僕にもいろいろねえ、あるんだよ」
 しみじみとそう言われても、ふうんとしか返せなかった。

 風呂から上がった後は自分で体を拭いて、髪は綾時に乾かしてもらった。
 それから暫くソファに並んで座り、テレビをつけてだらだら過ごした。テレビも音しか聞こえないと、結構な部分を想像で補わなくてはならなかった。サスペンスドラマはなかなかに意味深だった。
 テレビを見ている最中、いきなり手を掴まれたりすると兎に角びっくりした。こうしていきなり手を握られる事は普段から割と良くあることだけれど、見えないと言うだけでこうも違うものかと驚く。
 掴まれた手に意識だとか神経だとか、そういうものが全て集まっている感じがする中、いきなり耳に息を吹き掛けられたりしたらそりゃ驚いて悲鳴を上げながら頭突きを食らわしても仕方がないと思う。
 痛い、と言って綾時が丸まっているのも自業自得だと思う。人で遊んでいる節があるので尚の事だった。
 十一時過ぎに見ていたというか聴いていたドラマが終わると、じゃあ寝ようかとなった。
 いつもと比べたら早いが、今日だけはもう随分と時間が経っている気がする。体感時間としては夜中の二時くらいだ。妙に疲れた。
 さて寝室に行こうかと、すっかり慣れた調子で手を差し出す。そうすると綾時が手を取ってくれて、腕に導かれるというのがこの短時間で出来たパターンだったのだか期待は裏切られた。
 手を押さえて下ろされると、ひざ裏をすくわれた。後ろに転びそうになるところで背中を支えられ、体が浮く。この感じは俗にいうお姫様抱っこで間違っていないと思う。
 抗議をする前に綾時は「だって最後だし!」と言い訳した。
 そのまま寝室に運ばれて、ベッドの上に下ろされる。ふわりと体が沈む。あぐらを組んで体を落ち着けると、正面が少し沈んだ。同じく綾時が座ったらしい。
「さてお疲れ様でした」
「どうも」
 頭を下げられた気配がしたので、こちらも深々頭を下げる。
「何かとお世話になりました」
「いえいえこちらこそ。どうだった?」
「あー、割と散々な目に遭ったような気もするけど、意外と面白かった」
「そうなんだ。それは良かった。罰ゲームになってない気がするけど」
「だから明日は綾時が目隠しな」
「えっ」
 明らかに戸惑った声がした。散々な目に遭わせた自覚があるんじゃないか。
 まあでも、目を開けていたら絶対断る様なあれそれも、見えないから仕方がないと受け入れてしまえるので中々新鮮だった。
「じゃあ目隠し取るね」
 綾時はさっと話を流すと、後頭部に手を回してきた。後ろからごそごそと音が聞こえて、目隠しが外れる。「開けても良いよ」と言われ、少しずつ目を開く。眩しい、それに視界が凄くぼやけている。
 顔を上げると、綾時が青い瞳で笑っていた。
「久々の景色はどんな感じ?」
「久しぶりに見ると綾時って随分格好いい顔してるな」
「え」

(お題、理由、不自由、幸福)