リプ来たセリフでss書くまとめ

    
ブラロドのブラッドさんとクロノ
「一口ちょうだい」
 
 
「時々彼のことがとても美味しそうに思えるのだ」と、深夜遅くにふらりと現れた男は言った。暗闇の向こうから無遠慮に窓ガラスを叩き、バルコニーから入り込む。来ると分かっていたならば、蝋燭の灯りを消し、居留守を使ったものをと嘆息する。しかし手土産と言って渡されたぶどう酒の味は悪くなかった。
「普段はそんなこと、思わないのだが。時々、時々だよ。急に美味しそうだなあと思って、喉が渇いて鳴るんだよ。だからそう。一口ちょうだい、と言ってみたんだ」
 酒で滑りがよくなったのか、男の舌はつらつらと言葉を並べる。相槌も何も要らぬ様子でグラスを揺らして語り続ける。男の従者は言葉が少ないせいかもしれない。相槌のない相手に話すことになれてしまっているのだろう。溜息が漏れる。それを相槌と取ったのかは知らぬが、話は続く。
「それで彼はなんて言ったと思う。一口で宜しいのですか、だって。急に勿体なくなってしまって、結局一舐めもしなかったよ。可愛いだろう。あの堅物そうな様子で、いったいどこからそんな言葉を仕入れてきたんだろうねえ」
 けらけらと笑うと男はグラスに酒を注いだ。瓶がたぷりと音を立てる。「君ももっと飲まないとなくならないよ」と勝手に注がれる。呆れて肩を竦めた。
「そんな話をしに来たのか」
「こんな話、君ぐらいしか通じないよ。私の従者のことを知っている相手なんてね」
 そうだろうなと視線を逸らす。その話は何年前の出来事だ、と問えば「さて、何百年前のことだったかな」と男は優雅に首をひねった。

 
 
 
 
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ファティビビ
「ごめんね、冗談だよ」
 
 
 二人で純白のドレスを選ぶ。貴女にはこちらの方が似合うわと勧めても、でも貴女にはこっちのほうが似合うものと勧め返される。そうして平行線をたどること早一時間。
 これという一つが決められないのは、お揃いのドレスを着ると決めているから。私にはこれかもしれないけれど、貴女にはこれなの、という譲れない思い。着るなら一番似合うものがいい。一番きれいな貴女の姿が見たい。だってこれっきりなのだから。二度目など、来るはずがないのだから。
 ウエディングドレスを着る機会など、これ以外にあってはたまらない。
 言い争いの末、疲れてカフェに逃げ込んだ。ネイルに飾られた彼女の指がカタログをめくる。武器を握らなくなった両の手。ストローをくわえ、アイスティーで一息つく。
 ガラス一枚向こうには、ウエディングプランナーが立っていて、式場の案内、ドレスの案内、その他もろもろあまりに多くの項目を説明していた。
 ヴィヴィアンがめくるカタログには、統合世界全ての様式のドレスの写真が納められている。純白のドレス、カラードレス、竜界式、極東国式。彼女はどれを着てもきっと似合う。きっと可愛い。
 けれどもその中でも一番似合うドレスというものが絶対に存在する。私はそれを着てほしい。
 私と貴女の結婚式で、私は一番きれいな貴女が見たい。
「結婚しよっか」と言ったのは彼女だった。私はそれもありよね、と思いながら、けれどもきっと彼女はいつか「ごめんね、冗談だよ」と言い出すのだと思っていた。
「変な冗談を言うのね」という準備をしていた。けれどその機会は来ないまま。私はそろそろ、新居の心配をし始めるのだろう。

 
 
 
 

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クロジュリ
「その唇はすぐに嘘をつく」
  

 集合場所まで直線距離であと二百メートル。
 木々の生い茂る森の中、ポケットの中から懐中時計を取り出し、時間を確認する。いかにも年代物といった様子の懐中時計は、上司からの貸与品だ。果たして返す日は来るのか。それともはじめから返ってくることなど期待してはいないのか。この先の待ち合わせ場所にいるはずの、あの食えない上司の姿を思い出す。
 集合時間はすでに十五分ほど過ぎている。まずまず予定通りだ。さてそろそろ行くかとカノッサを抱え直す。足に力を込め、一つ深呼吸をする。そして全力で足を踏み出した。
 目的地の地図は頭に入っている。今いる場所からこの方角へ向かうことが最短だ。道を塞ぐ枝葉を切り落としながら地面を踏み、足を大きく前へ出す。切って、跳ねて、くぐって、進む。
 進む先に人の気配がある。チリ、と肌を撫ぜたそれは苛立ちだ。怒ってるよな、そりゃ怒るよな。と今までの遅刻の数を思い起こす。藪を抜けた先で、藤の色に似た瞳がこちらを睨んでいた。両足を並べて立ち止まり「ハハハ」と頭を掻き、体に着いた木の葉をわざとらしく払った。
「すみません、色々あったんすよ」とへらりと笑えば「ほう、まあ聞いてやるから話してみろ」と言われた。続けてにやりと笑い「その唇はすぐに嘘をつくが、今日はどんな言い訳を聞かせてくれるんだ」と肩を竦めた。
「端から言い訳って決めつけるなんて、先輩酷いなあ」
 探り合いなのかただの言葉遊びなのだか。判然としないところがこの人外の食えないところだ。そしてそれを心地よく思う己も、なかなかに愚かしかった。

 
 
 
 

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サンダルフォンとジータ
「君のそういうところはきらいだけど」
 
 
「サンダルフォンさん!」という少女の叫び声が、遠ざかる。あれほど大きな声を出せるならば無事だろうと、無意識に安堵の息が漏れた。
 グランサイファーから弾き出された体が落下する。
 背中をざっくりと斬られ翼が出せないが、その程度で死ぬわけではない。程なくして、草原の柔らかい土の上に叩きつけられる。落ちてきた船の上を見上げると、雷が落ちる様子が見えた。そしてその光景を背に、甲板から飛び降りる少女の姿があった。
 白いマントを羽織り、兎の耳を頭にさした、回復魔法に特化したジータの姿。舞い降りた彼女が呪文を唱えれば、杖は光を蓄え、弾け、サンダルフォンの頭上へと降り注ぐ。傷は即座に癒え、痛みが引いていく。
「簡単には死なないからって、すぐ無茶をするんだから。もっと上手く避けられたでしょ。丈夫な体に甘えすぎだよ」
「人間と違い簡単に死にはしないのだから、放っておいてくれても良かったんだが?」
「ルリアに急かされてきたの。もー、君のそういうところはきらいだけど、それでも、ルリアを庇ってくれてありがとう」ジータは手を差し出した。その手を無視し、砂埃を払い立ち上がる。
「握手を求めてるんじゃないよ。ほら、私を抱えて戻って。まだ皆戦ってるんだから」
「天司を顎で使うなど、この空では君くらいなものだろうな」
「飛べるよね」
「無論だ」
 二枚の翼を広げ、少女の軽い体を抱え上げる。たった数度の羽ばたき。それだけで甲板へと到達する。
「あーあ、回復に特化した魔導士さんうちの団に来てくれないかなあ」
 誰かさんのせいで全然前線に出られないよ、と少女はわざとらしくため息を吐いた。