200文字

(フレイバーテキストっぽいもの/ジャンルCPごちゃ)
 
 
 

(ロアラン)
一枚の写真が目の前に置かれている。身に覚えがあるが、撮られた覚えのない写真だ。隠密から探偵に転職をしたコイツは、領収書のようにその写真を差し出してきた。問題です、この女は誰でしょう、も何もない。ただの仕事相手。それを分かっている。コイツも分かっている。分かっているので酒の肴にされている。さて、この肴はどう使うべきなのか。探偵の表情は相変わらず読めない。
 

(ロドブラ)
夜に物音がする。昼に物音で目を覚ます。廊下を歩く足音。扉の開く音。閉まる音。風の抜ける音。くしゃみの音。時が停滞した古城の世界のねじを回すように、音がする。体を起こし、寝所を抜け出る。音の先を辿って行けば彼がいる。無表情で箒を握りしめた血の色の従者。生きた人の姿。どうなさいましたかと問う音がする。時計の針が動いている。
 

(ブラロド)
この世の全て。とはあの方のことを言うのだと思う。確信にも近い。いや断言してもいい。仇名すものは全て取り払ってしまいたい。日々を健やかに果て無き永遠を過ごしていただいて、そのお側に居させて欲しい。それが全て。それ以上もそれ以下も必要がない。咳き込む隙間にそう熱弁を振るえば、主はため息を吐く。愚かなことだよと諭されても、この世界には他に何もありはしないというのに。

 

(ブラロド)
朝になったら部屋においで、と主が笑っていた。朝になったら眠ってしまうのでは、と首を捻る。主の眠る部屋で何をするのだろう。眠りを妨げてしまうだけではないのだろうか。それとも寝つきの良くなる香りを焚いてほしいのか。温かい飲み物が欲しいのか。ぐるぐると考え古城を巡る。結論は出ぬまま朝になる。一度訪ねよう、そうして要件を伺おう。視線の先、扉の隙間から、主の手が呼んでいた。
 

(おおあと)
シャッターを切る瞬間、激しい興奮を覚えていた。高鳴る鼓動を抑え、画像を確認する。ああなんて素晴らしい。一瞬を切り抜いて、閉じ込める。シャッターを切るあの瞬間、世界は一瞬止まる。終わる。レンズの向こう、液晶の中では再び世界が動き出す。イヤホンの中から雑音交じりの声が聞こえる。今この瞬間だけ、世界はチカチカと僅かに輝いていた。喉が鳴る。この感情をなんと例えよう。
 

(シンジャ)
旅に出ましょう、と背中を押された。それほど大きくない手だ。背中を押すなどという表現では生ぬるいほど勢いよく、ただただ急かすように押される。私の荷造りはもう終わっていますよあとはアンタだけですよ。さあさあ。と、いつ振りに聞くか分からない、コロコロと楽しげな声が鳴る。不在の間に世界は大変なことになりましたよ、と危機感のない声が笑う。だからまた、冒険に行きましょうよ。
 

(レプオリ)
少女がとなりに並んでいる。同じ機械の少女は珍しく、こっそりと伺いみる。金色がぴかぴかと輝くきれいな少女だ。彼女も私と同じように連れられて来たらしい。連れてきた人たちは向こうで設計図を見ながら楽しそうにお喋りをしている。どうして私たちは二人で取り残されたのだろう。再び盗み見ると、今度は金色の瞳と目が合ってしまった。彼女の無表情が一変、笑顔を見せる。初めまして、よね。と目を細めて。
 

(綾主)
生まれ変わったら何をしたいか、について議論したことがある。何をするかも重要だが、君と僕がどのような関係性で生まれるか、についてが一番白熱した。始めて喧嘩したと言っても良いほどだ。僕の方がお兄さんに生まれたいとか、彼の方が背が高く生まれたいとか、それはもう白熱した。彼がまだベルソナを呼べたのなら、僕は消されていたかもしれない。まあ、全て空想なのだけれど。
 

(ダンフォル)
キッチンから聞こえる鼻歌で目を覚ます。体は何故かソファの上にあった。昨日の記憶がない。正確には家に帰ってきてからの記憶が。フライパンを熱する音、ボールの底を泡だて器が撫でる音が聞こえる。そして惚れた歌声の小さなメロディ。指先で空想上の鍵盤を叩く。世界一贅沢な寝起きだと思えば欠伸が零れた。物音を聞き取った背中が振り向く。赤い髪が揺れる。おはようと笑う声すらも美しい。
 

(クロジュリ)
夜な夜なやってきた人ならざる上司に髪を梳かれている。良い櫛を手に入れたんだが俺には必要がないからな、と実に楽しそうな声が背中から聞こえる。全くもって落ち着かない。これに何の意味が。どうして背後にいるのか。通された櫛は毛の先まで優しく梳いていく。頭を撫でるにも近い甘い仕草。悪くないと思う己に辟易する。もしもこの感情を許容したら、何が変わるのだろうか。どうなってしまうのだろうか。
 

(クロジュリ)
ふと、気付く。今が何年何月何日の何時かが分からないということに。何故だと振り向いた先、時を名に持つその人がいた。時計を見せてくださいと頼む。肩を竦め手渡された懐中時計に、針はついていなかった。硝子に覆われたまっさらな文字盤。良く知った建物の中には二人しかいない。扉の外には何もない。どうしてだと言葉が零れる。獣の耳が揺れ、こちらを指さした。お前は何を願っていたんだ、と。
 

(イベロスさま)
ベッドに居たのは、今となっては白いばかりの男だ。痛んだ長い髪をシーツの上に散らし、こちらを見ている。どうしたんだと笑いながらベッドの縁に腰を下ろした。男は考えるような呆れたような表情で、こちらを手招く。貴方が作った貴方だけの私ですよ、と意味ありげな声が誘う。なるほどただ寝そべっていたわけではないらしい。細い白髪に指を通す。添い寝でもしてやろうかと笑えば、意地悪な人、と男がぼやいた。