(ギルバとモブのめちゃくちゃ小ネタ)
「まあ飲めよ」
長身で長髪の男が、酒瓶を片手に肩を組んでくる。
中身のたっぷり入った飴色の瓶を軽々と持ち上げ、擦り傷だらけで濁ったガラス製のグラスに向けて傾ける。途端にアルコールの匂いが鼻についた。むせかえるようなその匂いから、アルコールのキツさが感じ取れる。
海辺にあるこの酒場は、耳が痛いほど賑わっていた。
木製のテーブルと椅子は全て埋まっており、厨房ではまるまる肥え太った親父がフライパンを振っている。問題は、そのほぼ全員がこの男の部下であろうことだ。
「友好の証だ」
肩を組んだ男が笑う。にやりと持ち上げた口角、唇の隙間からは尖った歯が覗く。耳も尖っており、ただの人間ではないことが分かる。元より、この酒場にただの人間などほんの一握りしか居ないだろう。サメにシャチに鰐に鳥に。動物園かよと思うが口には出さない。組んだ肩が、首を絞める腕に早変わりしては堪らない。
形ばかりの友好を前にグラスを掴み、一気に酒を煽る。喉が焼けるように熱くなり、体にボッと火が灯るようだ。音を立ててグラスをテーブルに置けば「いい飲みっぷりだな」と楽しそうな声が、肩を揺らし耳元で笑う。そして再び、酒でグラスが満たされる。
テーブルに並んだ揚げ物にフォークを刺す。何の生き物かは分からないからあげも、酒精に惑わされた頭には妙に美味く感じられた。ざくりと噛み切り、ごくりと飲み下す。げたげたと笑った男も、分厚い肉を口へ運ぶ。尖った歯が、ぶちりと肉を噛み千切る。それが見え、聞こえた。
男の片目は眼帯で覆われており、こちらから目の色をうかがうことは出来ない。何色の瞳をしていただろうか。今どういう表情で笑っているのだろうか。「楽しいなァ」と笑う声に背筋が冷える。
どうしてこのような仕事を受けてしまったのだろう。
どうしてこの海賊風情の男と組むことになったのだろう。
注がれ続ける酒を喉の奥へと流し込んでいけば、思考はまるで回らなくなる。
良く鍛えられた体が、腕が肩に回されている。古い傷跡から、生々しい切り傷まで、様々な痕跡が男の体を覆っていた。それはこれまで潜り抜けて来た死線の数であり、男の強さを裏付けるもののようでもある。男の腕は、信頼できるだろう。この仕事はきっと、上手くいくだろう。
だというのに体はどんどんと冷えていくようだった。酒精に惑わされ意識はふわりと浮く。なのに寒い。何故だ。分かり切ったことだ。
「顔色悪いぜ。そんなに心配なのか? 安心しろよ、仕事はきっちりこなす」
なあ。
陽気な様子を装って、声が掛けられる。顔を覗き込まれる。男は確かに笑っていた。
自分が死ぬ未来が、この男の瞳の奥に見える。