小ネタ

(爆轟/跳ねの良い踏み台で公開していた、ハロウィン小ネタ)

 
 
  
 

 家に帰ると轟が倒れていた。
 血まみれだ。リビングで、うつ伏せで、片手を伸ばし、腹のあたりには赤い水たまりができている。
 どうする、と爆豪は玄関で考えていた。問題は、のるか、蹴るかだ。
 スニーカーを脱いで、はずしたキャップをフックに掛け、部屋へと上がる。轟と二人で暮らす部屋だ。一緒に住み始めて、かれこれ二年か。同棲を持ちかけるまでが長かったが、越してからはあっという間だ、と記憶をたぐる。
 そして、ダイイングメッセージよろしく指先を伸ばしている轟の腕を、蹴った。
「おい起きろ舐めプ」
「……もう少しのってくれてもよくねぇか」
 今日はハロウィンだろ。
 そう文句を言い、轟がむくりと起き上がる。
 その血糊きれいに取れるんだろうなだとか、ハロウィンは死んだふりするイベントじゃねえだとか、まあまあ色々言いたいことがあったが、どれもいまさらな気がする。
 爆豪が選んだのはこういうやつだ。それに、なにしてんだ、とは思っても、嫌にはなれなかった。
 血糊をぽたぽたと滴らせる轟が、目を丸くして爆豪を見た。
「なんでわかったんだ? 全然驚いてなかったよな」
「出血量のわりに、血の匂いが一切しねェ」
「お、確かにな」
「つーかどっからンなもん手に入れてきやがった」
 わざわざこの日のために準備したのではあるまいな、と疑ったが、さすがにそこまでではなかったらしい。「今日飛び込みで来た営業が」と轟が説明を始めた。
「サポートアイテムの他に、ハロウィンだからって血糊持ってたんだ。サービスっつってくれた」
「意味がわからねェ」
 営業も、轟もだ。
 床の血糊溜まりを避け、リビングに入る。轟がついてこようとしたので「動くな血まみれクソ舐めプ」と制する。掃除用品入れからぞうきんを引っ張り出し、血まみれ野郎の足元に投げつけた。舐めプはいささか悔しそうだったが、素直に床を拭きはじめた。赤色がきれいに吸い込まれていく様子にほっとする。リビングに事故現場の名残柄が残らず、本当によかった。
「おい、轟。トリックオアトリート」
「……あ、やべぇ。死ぬのに忙しくて甘いもん買うの忘れた」
「ハッ舐めプ! トリック決定じゃねえか」
「そういう爆豪はどうなんだ?」
 ほら、と轟が手を出してきた。背負っていた鞄を前に持ってきて、中身を漁る。にんまり笑って、その手の上にクッキーの袋を乗せてやった。
「テメェと一緒にすンな」
「あ、これあそこの焼き菓子屋のだろ? ここの美味いよな、わざわざ寄ってくれたのか。ありがとな」
「ウッセー! さっさと着替えろ!」
「おう、大事に食うな」
「の前に飯だ」
「飯の準備はできてるぞ」
 自信たっぷりに答えた轟と並んで部屋着に着替えた。
 で、トリックはなににするか、と考えを巡らせる。爆豪は明日は休み、轟は午後から出勤のはずだ。そういうことでもするかと計画を練る横で、轟が自信たっぷりにこちらを見ていた。なにかと思えば、指先を台所に向けた。
「今日の晩飯はカボチャの煮物だ」
 ハロウィンだからな。の意味は全く分からなかったが、煮物はまあまあ美味かった。それからキッチンで、くりぬかれるどころか背面ごっそり持っていかれた、ジャックオーランタンもどきが発見された。
 いわく「煮物にするのに足りなかった」だそうだ。
 雑な野郎だ。