呪術小ネタつめ2021

211117

「知ってた七海? 夏油さんと五条さんって制服の上着おそろいなんだって。なんかいいよね、あの二人っぽくて。二人そろって最強! みたいな。憧れるなー。あっそうだ七海、僕たちもおそろいデザインにするってどうかな」
 七海は思った。あの二人のようになるのは嫌だと思った。しかし目をキラキラさせて話す灰原の願いは聞いてやりたいとも思った。制服を揃いにするだけならば、まあそれほど悪いものではないのでは。でもあの二人のようになるのは、でも灰原が、でもアレと同列、灰原とおそろい、アレ、灰原。
「考えておきます」と七海は去り、その後七日七晩悩んだ。
 
 
 

211110

 サングラスを外して「傑」と呼びかけ、振り向いた顔にかけさせる。まあガラが悪いのなんの。当の本人は「思ったより見えないんだね、これ」なんてのんきに笑っている。
 そうそう全く見えないんだよねそれ。呪力の見える眼には関係ない話だけれど、とか考えながら、傑の唇にキスをした。
 ちょんと触れて、何事もなかったかのように離れる。見えてないはずなのに、傑の視線が追いかけてきた。まあとなりに座っているのだから見えなくても分かるだろうし、術師なら呪力だのなんだので結構分かる。
 体術が得意な癖に武具まで練習しているから絶賛タコだらけの指が、サングラスを外す。
「今までで一番可愛げがあったから、少しときめいたかな」
 その言葉と共に、サングラスが丁寧に返却されてきた。ツルがこめかみを滑って、耳の上に収まる。視界が遮られる。その奥で呪力が揺らめき、傑が正面に回り込むのが見えた。
 やられる側に回ってみると、まあ恥ずかしかった。
 
 
 

210927
この部屋ってこんなに広かったっけ。本棚の中身を抜き出し、段ボールに放り込む。右から左へ、あれもこれもそれも、全てひとくくりだ。こんな本あったんだ、知らなかった。一瞬手を止めて、再び放り出す。親友だと思っていたって、言っておけばよかった。

 
 

あのとき俺たちは最強だったんだ。確かにそう信じていた。俺たちは最強で、俺たちは親友だ。それを言葉にして確かめ合わなくなったのはいつからだろう。いつから俺は一人で最強になっていたのだろう。親友に至っては、言葉にしたこともなかった。それでも。僕はずっと、思っていたよ。思っているよ。
 
 

きれいな男だな。第一印象はそれだった。だがそれはすぐに崩れ去る。握手よりも先に殴り合いをしたんだっけ。態度は悪いし、すぐに人に喧嘩を売るし、態度は悪い。何回喧嘩したかも分からない。それでも、私の親友だったんだ。

 
 
 

210625

「スーツ買うからついてきてー」って、一人で行きなよ。と言いながらも結局ついてきてしまったので、これは私が悪いのかもしれない。でもキッチンペーパーがもうすぐ無くなりそうだったし、帰りにスーパーなりドラッグストアなりに寄ってもらえばいいか、とか、色々考えたりもしたのだ。けれどまあ、ついてきてしまったことに変わりはない。
 ボタンをしめ、更衣室の外に踏み出す。
 しかしまさか、私のスーツを買いに来たとは思わないだろう。店に入ってからかれこれ一時間、着せ替え人形をさせられている。されるがままもいいところだ。私そっくりのマネキンでも用意して、勝手にやってくれないか、と思い始めていた。
「とは言いながら、傑も全部ノリノリで着るじゃん。キャー傑そのポーズカッコイー抱いてー!」抱くのは君だろ。「キャー」ってもうね。
 いいものを着せられるとそれなりに楽しい。けれど限度ある。その上この店、どこを見ても値札が一つもついていない。オーダーメイドしか受け付けていないことは分かる。いったい幾らになるのか。それほど高いスーツを仕立てたところで、着ていく場所などそうないというのに。
 元の服装に着替えて戻ると、オーナーと話し込んでいた悟が、ペンを持ってサインをしていた。ちょっと待ってくれないか、という間もなく、とんとん拍子に話は進み「できたら取りに来るから」と軽やかに言う悟に背を押されて店を出た。
 ドラッグストアを探す道すがら、それで今いくらの契約書にサインしたの。と聞けば「五百万」と言われたので卒倒しそうになった。高くてもせいぜいこれくらいだろう、の五倍もした。それほど高いスーツをもらっても困るよ。となんだか似たような言葉を毎回言っているな、と思いながら伝えれば、悟は真剣な顔をして変なジェスチャーをして見せた。
「傑は五百万で買えないけど、傑が居たら五百万のスーツは着せ放題。お買い得でしょ」
 なにひとつ理屈が理解できなかった。ため息も出るというものだ。人を使った浪費を娯楽にするのはやめてくれないかな。すでに私のクローゼットは大変なことになっているというのに。
 お腹が空いたので、通り道にあったラーメン屋に入って、それからドラッグストアで百九十八円のキッチンペーパーを買って帰った。

 
 
 

210519

 正しさというものが、存在すると思っていたんだ。
 正しいことをしている人が報われるとも、きっと思っていたんだろうね。
「すっ飛んでくるだろうから、その辺で待ってたら」と硝子が言う。それはどうも、ありがとう。これでもう会うこともないのかもしれないね、なんて苦笑する。私が言えた義理ではないな。「次会う時は死体かね」とかけられた言葉はきっと正しい。そのまま見送って、そうして別れた。あっけなく、あっさりとしている。
 ここに立つ私の手の中に、すでに正しさはない。持っているべきだと後生大事にひび割れを隠し続けていたが、数日前ついに割れてしまった。そこまでして抱えていたにもかかわらず、結局大して役に立った覚えもない。割れたそれを捨てさったことで、少し体が軽くなったように思う。いや、どうだろうか。
 それでもなお世界には正しさが存在し、それにより成り立っているというのならば、私はこの後死ぬ。死ぬはずだ。
 これからここにやってくる男が、それを証明する。

210402
記憶は何処に宿ると思う。脳みそが保管しているのか、はたまた魂に蓄積されているのか。俺の見立てでは物質。肉体はもちろん、使った物とか言った場所とかそういうところにも少しずつ蓄積されていく。それを寄り集めてお前の喉仏の骨を核にこうさ、ちょちょーっと。わはは、まあすっげえ時間かかったわ。けど今お前が喋っているし、そこに居ると認識しているなら成功なんじゃねえの。考えている自分が過去の自分と同じかどうかの話までする? さあ、さすがに俺も証明できないよ。魂がどうだって? そもそもいくら呪術師って言ってもさ、魂をどうのこうのするのは難しいわけよ。できないわけじゃないけど、それってつまり呪いに転じるってやつで